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二拠点居住の場として注目が高まる山梨県。セカンドホームサブスクリプションサービス「SANU 2nd Home」を山梨県で展開している株式会社SanuのCEOである福島弦氏と山梨県の長崎幸太郎知事が対談。二拠点居住地としての山梨県のポテンシャルについて語った。
※こちらの特集は、2022年12月時点の取材に基づいて作成しております。
月額5.5万円で、「自然の中にもう一つの家」を持つセカンドホーム・サブスクリプションサービス。サブスクに登録することで、都心から好アクセスな自然立地にあるキャビンを自由に選んで滞在できる、「都市から日本各地の美しい自然に繰り返し通い、生活を営む」新しいライフスタイルを提供している。2022年12月現在、都市からアクセスしやすい自然立地に7拠点50棟が完成しており、そのうち最多の4拠点37棟が山梨県内にある。
――2022年12月現在、サービスを展開する7拠点のうち4拠点が山梨県です。福島さんは山梨県という土地にどんな魅力を感じていますか。
福島氏:都会と行き来する二拠点居住の場として考えたとき、都会からのアクセスの良さ、自然の景観の素晴らしさ、さらにその自然の恵みで育った幸をレストランで食べたり、トレイルランを楽しんだりといった文化やアクティビティも含めて、生活体系の中で自然を享受できる場所であること。「自然と共に生きる在り方」があって、そのバランスの良さや総合力が突出しているのが山梨県だと思います。
夏はマウンテンバイクやカヌー、登山、トレイルランなどワールドクラスのアクティビティを楽しめる自然があり、八ケ岳周辺にはトップアスリートやアウトドアガイドの方も多く移住されています。冬は冬で、北欧を思わせるような透き通った空気感が魅力で、しびれるような寒さも個人的には大好きです。
自然もユニークで、例えば富士山麓に広がる青木ヶ原樹海は、溶岩の上にできた極めて若い森で、自然の発芽を見られます。多くの溶岩洞穴は、いわば“生の地球を見られる場所”といえるのではないでしょうか。
――SANUのサービスは、どんな方がどのように利用されていますか。
福島氏:従来の別荘利用者はほとんどが60代以上でしたが、我々のサービスの利用者の8割近くが30~40代のファミリーや共働きのカップルです。観光目的で泊まるホテルと違い、仕事をしながら生活する方も多いため、稼働率に偏りが少なく、むしろ休日より平日のほうが高いほどです。平均滞在は2~5泊。2泊なら1日はゆっくり過ごし、もう1日は早朝から登山やカヌーなどアクティブに過ごす方が多いですね。
例えばファミリーなら、朝、都内の自宅を出発し、途中で市場や道の駅に立ち寄りながら地元の新鮮な野菜などを買い込んで15時頃にチェックイン。夏なら虫取りや川遊び、冬なら雪遊びなどを楽しんで、夜はいつもより時間をかけて料理を作り、ゆっくり食卓を囲む。翌朝は自然を眺めながらのんびり朝食、そのあともフルーツ狩りやアクティビティツアーに参加するなどして、自然の中での家族の時間を楽しむ……そんな過ごし方をされている方も多いですね。
共働きカップルは、平日利用が多く、ワーケーション的に滞在する方もいます。仕事終わりに集合して、その日は近くのレストランで夕食。翌朝は普段より早起きして、朝の散歩でリフレッシュ。昼間は仕事に集中して、夜は外で焚き火をしながら穏やかな時間を楽しむ、といった感じです。近隣の飲食店やワインショップの開拓を楽しみに通う方も多く、最近はお店の方から「SANUの利用者さんですか?」と声をかけられることもあるようで、地域の方との交流をも含めて体験全体を楽しんでいる印象です。なかには拠点の一つである八ヶ岳を気に入って移住を検討している方もいます。
長崎知事:近年は八ケ岳周辺に、都内で活躍してきた料理人の方々が移住して開いたレストランも増えています。美食は地域の大きな魅力になりますので、県としても応援していきたいですね。山梨県は春は山菜、秋はキノコなど、四季折々、食材が豊富な土地。実は私も料理が趣味で、ときどき子どもの朝食を作るのですが、新鮮な地元の食材を使うと何気ない料理もすごく美味しくなるんですよね。
他にはアート面も充実させていきたいと考えています。富士山は世界遺産に登録されていますが、正式名称を「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」といい、古くから多くの芸術家にインスピレーションを与えてきました。サザンオールスターズの最初の曲は富士山麓の河口湖で作られたのですが、桑田佳祐さんいわく、ここには何かがあると。2021年にはサザンオールスターズが所属する事務所、株式会社アミューズが河口湖町へ本社を移転しましたが、クリエイターにとってもポテンシャルの高い土地なのです。
それから山梨県の魅力の一つとして多様性も挙げておきたいと思います。例えばワイナリーにしても、全国一の約90のワイナリーがそれぞれのテロワール(ぶどうの生育環境)を活かしたワイン造りをしていますし、温泉の泉質の多様性も全国トップレベルです。
――二拠点居住のような新しいライフスタイルに関心を寄せる方へ、山梨県だから届けられる価値は何だと思いますか。
長崎知事:私は山梨県を「人間性を取り戻す」「人間らしさをチャージする」ことができる場所、「Work in Life」を送れる場所として創り上げていきたいと考えています。都会で仕事だけの生活をすることが、果たして人間らしいといえるのか、個人的には少し疑問に思います。もちろん、仕事は重要ですが、あくまで人生の一場面であり、他にも家族との生活、スポーツなどの余暇、自然との親しみ方も森歩きや釣り、農業などいろいろあって、それらをトータルで楽しむのが本来の人生という気がしますし、山梨県はそういう人生の在り方を体現できる場所だと思っています。都会とほぼシームレスにつながることができる好立地にありながら、自然や地域コミュニティなど、人間性を取り戻すのに足るものがそろっていると自負しています。
福島CEO:私も人間性とか、物事に体感的であるとか、そういう感覚をすごく大事にしています。SANUは自然と共にある生活“Live with Nature.”を提案していますが、そもそも私がこの事業を立ち上げた理由は、20代の頃、都会で必死に働くうちに自然への渇望感が強くなったから。その背景には、ふるさとの北海道の山の中で育ってきた原体験があると思っています。
福島氏:やっぱり人間も動物なので、体感性を持って自然と共に生きること、その豊かさを実感することが重要だと思っています。ですから、我々も単に建築物をつくるだけでなく、そこでの体験、例えば地場産の食材を使った美味しい食事を食べるとか、美味しい八ケ岳の空気を吸うとか、それらも大切にしながら事業を展開しています。
今、コロナ禍を経て、多くの人が生活スタイルを考え直しています。同時に環境問題や豊かな生き方などへの根本的な問いもなされています。そうした中で、やはり重要なのは、自然と触れ合って生きるような原体験、それをとりわけ幼少期の時代からつくっていくことではないかなと。それをなくしてこの先の未来はつくっていけないのではないかと思っています。
長崎知事:山梨県は子育ての環境としても理想的です。自然の中で走り回る原体験が思いっきりできますよ。川遊びをしたり、虫を取ったり、カブトムシも捕まえきれないほどいます。童謡『ふるさと』の世界観をリアルに体験していただけると思います。
また全国的にも先進的な取り組みの一つとして、公立小学校で25人の少人数教育を実施しています。少人数教育では先生と生徒、また生徒同士の結びつきが濃くなり、すべての子どもに居場所が生まれます。不登校が解消したというお子さんもいらっしゃいます。現在は1・2年生が対象ですが、今後、拡大予定です。SANUをきっかけに山梨県を訪れた方が、子育て環境としても魅力的であることを実感いただけると嬉しいですね。
福島氏:SANUが利用者の方に提供できる価値は大きく2つあって、一つが「繰り返し通う」こと。何度も通ううちに帰る場所、いわば「第二のふるさと」になっていく。もう一つは「生活を営む」こと。単なる観光客ではなく、そこで暮らすことで、地域の人との深いつながりやその土地の自然を慈しむ心が生まれてくる。ホテルに泊まるのとは似て非なる体験を提供できていると思います。
――山梨県での二拠点居住の魅力を伝える、あるいは増幅させるために、今後どんな取り組みを考えていますか。
長崎知事:山梨県では昨今、上質な時間や上質な生活空間、上質な産業空間といった「上質な環境の提供」ができることの訴求に力を入れています。すでに2022年1月から「ハイクオリティやまなし」という山梨県のブランド情報発信サイトを運用していますが、今回このサイトの中に、二拠点居住に関心のある方へ向けた情報を提供する本サイト「Y-charge(ワイ・チャージ)」を創設しました。Y-chargeでも、山梨県の上質さを切り取った発信をしていきます。魅力発信はデジタルとリアルの両軸で考えており、デジタルはY-charge、リアルではSANUの力にも大きく期待しています。
福島氏:我々はすでに山梨県に4拠点を展開していますが、今も訪問するたびに地元の方から「ここもいいよ」「こんな魅力があるよ」と教えてもらうことが多く、まだまだリアルに体感できていない素晴らしい自然がたくさんあると思っています。そんな自然との出会いを私たち自身も楽しみながら、その魅力をサービスとして展開していけたらと思っています。
長崎知事:山梨県の新たな魅力や良さを見つけてくれるのは、本当に嬉しいですね。地元の人は案外土地の魅力に気が付きにくいことがあります。例えば、真冬のたくあん作りなども都会の人にとっては興味深い光景なのに、地域の人にとっては当たり前の日常で、とくに価値があるとは思えなかったりする。外から来た人に伝えてもらって初めて気づけることもあるし、それが地域の自信にもつながります。ぜひ都会から訪れるSANUの利用者のみなさまにも、山梨県の魅力を発信していただけたらと思います。
福島氏:今後は利用者と地域のつながりをより深めるような取り組みもしていきたいです。我々の建物は環境にも配慮しているのですが、例えばそれを地域の子どもたちに紹介したり、あるいはSANUの利用者のお子さんと地域に暮らす子どもたちが一緒に焚き火を囲んだり。そんな機会が増えていくと、本当の意味で地域とのつながりが生まれてくるのではないかと思っています。
長崎知事:そうですね。さらに言えば、子どもたちに限らず、大人の交流も仕掛けていきたいです。最近は仕事を複数抱える“複業”も広がっていますので、複業の拠点の一つとして山梨県でも何か仕事をするような人が増えたら、ますますおもしろくなると思いますね。
福島氏:二拠点居住は、いわば世の中への新しい提案です。新しいことを始めるのは大変ですが、誰かが始めなければ世の中に大きな動きはつくれません。今は「こういうライフスタイルもありかも」という段階ですが、ゆくゆくは「二拠点居住って当たり前だよね」となると、都市と地域の在り方、日本の在り方も大きく変わってくるのではないかと思っています。ぜひ山梨県とも協力しながら、“旗振り役”をしていきたいです。
長崎知事:二拠点居住が当たり前になって、多くのみなさんが日常的に都市部と山梨県を行き来し、「人間らしさ」を取り戻しながら、あるいは「人間らしさ」をチャージしながら高いクオリティで仕事などをしてほしいと考えています。山梨県としてもSANUのみなさんとも協力しながら、より上質かつ満足度の高い環境をつくっていきますので、どうぞご期待ください。
山梨県と株式会社Sanuは、「二拠点居住推進に関する協定」を2022年11月1日に締結した。今後は、SANU 2nd Homeのサブスク会員や関心層に向けた山梨県の魅力や地域の情報発信、会員のニーズの収集・提言などを実施予定。直近では、会員専用カーシェアサービスの利用を通じ、二拠点居住の交通インフラ課題に関わる実証実験にも取り組み、山梨県の二拠点居住の環境整備を加速させている。
やまなし暮らし支援センター(個人専用)※山梨県が運営する相談窓口です。
〒100-0006 東京都千代田区有楽町2-10-1 東京交通会館8階(NPOふるさと回帰支援センター内)
電話番号:03-6273-4306
山梨県二拠点居住推進センター(法人専用)
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