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東京から山梨県大月市に移住した若者が、2020年7月に結成したコミュニティ「ローカルディスタンス」。20~40代を中心に約100名がつながり、大月市をよりよくするために活動している。活動の内容や大月市を選んだ理由について、メンバー数名に語ってもらった。
範馬冴存さん(以下範馬):山梨県大月市で2020年7月に活動を始めた地方創生・地方活性化のコミュニティです。「大月を世界一にしよう」という私たちの思いに共感してくれた約100名のメンバーがいます。20~40代くらいが多く、職業もさまざま。公務員や主婦、学生の方もいます。
イベントの企画運営などを担う中心的なメンバーは、私を含め10人前後。上下関係はなく、フラットな関係で、それぞれの得意分野を活かして活動しています。
範馬:一つは、YouTubeやウェブサイトでの大月市の魅力や観光情報、地方暮らしについての情報発信です。YouTubeチャネル「ローカルディスタンス」では大月市内の飲食店紹介に力を入れていて、市内のほとんどのお店を網羅しています。ウェブサイト「大月ラボ」では、大月市への移住を検討している人に向けて、リアルな移住体験談やお役立ち情報を届けています。
情報発信以外に、地域イベントの企画や運営もしています。たとえばコロナ禍で苦境の飲食店の応援資金を募るクラウドファンディング「大月スマイルプロジェクト」を立ち上げたり、桂川沿いのゴミ拾いイベント「桃太郎ゴミ退治」を定期的に実施したり。空き家をDIYでカフェ(※現在は閉店)に改装したこともあります。
範馬:ローカルディスタンスは、もともと東京でチームを組んでウェブの仕事を請け負っていた4~5人の仲間と一緒に大月市へ移住して始めた活動です。
大月市という場所を選んだのは、チームの一人が大月市内でゲストハウスを運営していたから。コロナ禍前から何度か遊びに来ていて、いい場所だなと思っていたんです。東京からも近いし、自然が多いのでクリエイティブな仕事の合間の癒しになるし、家賃もだいぶ安い。ウェブの仕事はどこでもできるし、「コロナ禍の間だけでも大月に住んじゃおうか!」くらいの軽い気持ちで来ました。
範馬:大月市で仕事をしていくには、まずは私たちの存在を地域の人たちに知ってもらう必要があると考えて、YouTubeやウェブサイトでの情報発信から始めました。地道に発信を続けるうちに応援してくださる方が増え、市役所や観光協会からウェブサイト制作や講演の依頼もくるように。私たちの中でも「地域のために何かしたい」という気持ちが強くなり、今は地域活性化がローカルディスタンスの活動の主軸になっています。
これは大月市に限った話ではありませんが、地方は人口減少など課題が多いのに、変化を好まない人が多い。でも逆に考えれば、この先の変化の余地がものすごく大きいということ。「もっとよい環境にしていけるはず」という思いが、活動の原動力にもなっています。
範馬:口コミや人の紹介で輪が広がっている感じですね。知り合いを紹介してもらったり、イベントで出会ったり。100名のメンバーの関わり方は本当に人それぞれで、興味のあるイベントに単発で参加する人もいますね。ゆるく心地よくつながれる環境です。
一方で、つながりたい人がちゃんとつながれる場所も必要だと思っているので、2カ月に1回程度、「地方LINK」という地域の交流会を開催しています。地元の人や移住者、Uターンした人など、大月市に関わる人が誰でも集える場で、移住者同士が仲良くなることも多いですね。私たちも移住に興味がある人には積極的に情報を提供したり、大月市を案内したりしています。
範馬さん自身は、大月市にどんな魅力を感じていますか。
範馬:最初はコロナ禍の間だけ住むつもりだったのが、落ち着いてからも「ここにいよう」と思えている大きな理由は、地元の人たちのやさしさやフレンドリーさ。野菜をおすそ分けしてくれたり、夕食に誘ってくれたり、まるで親戚のようなんです。最初は都会とは違う距離感に戸惑うこともありましたが、今はその温かさにほっとしますね。
多村真菜さん:コロナ禍で家族の時間が増えて将来を真剣に考えたとき、もっと自然豊かな場所で子育てをしたいと思って、ローカルディスタンスとの出会いを機に移住を決めました。都会とは暮らしのペースが違い、なじむまで少し時間はかかりましたが、子育てには本当に最高の環境ですよ。都会は核家族が多く、隣近所との関係も希薄になりがちですが、ここは地域のみんなが子育てをしてくれている感覚。子どもの小学校は全校児童約60名と小規模で、先生が一人一人を丁寧に見てくれます。お子さんによって感じ方は違うと思いますが、うちの子たちには合っていますね。
卯月萌里さん:学生時代は「田舎から出たい」一心でした(笑)。それがUターンしてみたら、大月市をよくしようと活動している同世代の人たちが大勢いて。驚くのと同時に、自分にも何かできることがあるんじゃないかなと思うようになりました。同世代との活動はサークルのような楽しさもありますね。地域活性化には若い人が集まって街を盛り上げるのが大事だと思うので、活動をさらに広めていきたいです。
今泉航さん:僕もずっと「山梨県はつまらない。東京へ出たい」と思っていたんですよ。それがたまたまメンバーの一人と知り合って、なぜか一緒にカブトムシを捕りに行って仲良くなって(笑)。ローカルディスタンスの話はあとから聞いたのですが、おもしろそうだと思って参加しました。
もともとDIYが趣味なので、それを活かしてこの場所(コミュニティ拠点の「大黒屋」)も改装しました。以前は周りには山しかないと思っていたけれど、山が多いからこそDIYの木材が入手しやすかったり、活用できそうな空き家もたくさんあったり、これまで気づけなかった地域のポテンシャルに気づけました。そのうち地元の材木屋さんなどと協力して、何かおもしろいことをやってみたいですね。
大山覚士さん:大学の知り合いからローカルディスタンスのことを聞いて参加しました。中学時代から地方創生に興味があり、机上の空論ではなく、実践している環境に身をおいてみたかったんです。活動初期から関われたのもおもしろくて、一時期は大月市から横浜の大学へ通っていました。今は研究が忙しいので横浜へ戻りましたが、時間があれば活動に参加しています。スタートアップ企業に入った感覚に近いのかもしれません。
七瀬仁さん:偶然メンバーに出会って、気づいたら大月に住んでいました(笑)。地域の観光を盛り上げるためにローカルディスタンスでは猿橋遊覧船ツアーを実施しているのですが、今はその船頭も務めています。本業はWebエンジニアで、個人でECサイトの制作などを請け負ってきました。会社勤めをしたことがないので、ローカルディスタンスで同年代のメンバーや行政の方など、いろいろな人たちと関わりながら活動するのは刺激があります。
同じ山梨県内でも、甲府市とはだいぶ人との距離感が違いますね。近所の人にご飯やお茶に誘われることも多く、孫のようにかわいがってもらっています。
範馬:そうですね。たまたまメンバーの誰かと親しくなった人が、私たちの活動を知り共感して、一緒に活動してくれるケースは多いです。開始当初はこんなに多くの人が関わってくれるとは思いませんでした。地元の人には「大月の奇跡」なんていわれることもあります(笑)。
最後にローカルディスタンスの今後の展望を教えてください。
範馬:実は2022年5月に株式会社Localabilitiesを立ち上げました。今後、本格的にまちおこし事業を展開していく予定です。
私たちの地方活性化のゴールは、地方で「夢を叶える環境を創る」こと。そのための取り組みの一つとして考えているのがクリエイター育成で、今後はデザイナー講座やプログラミング講座などを実施予定です。これから副業はもっと当たり前になるはずで、とくにITスキルを持つクリエイターは場所を問わずに働けるでしょう。ただ、山梨県内には副業OKの会社はまだ多くありません。企業にも働きかけて変革を促しつつ、そこで活躍できるクリエイター育成もしていくという両輪で、自由度高く働ける環境と人を創っていきたいと思っています。
範馬:いずれは上場し、大月市での地方創生の成功を全国、ひいては世界へ発信したいですね。大月市発の私たちの会社が有名になることは、大月市の知名度アップにもつながるはず。私たちだけで日本全体を変えるのは難しいですが、大月市が成功すればほかの地域も追随してくれるのではないかと思っています。
活動を始めて2年経って思うのは、大月市という地域全体で見ると保守的な印象でも、一人一人を見ると情熱を持った個人が多く、変化の可能性は無限にあるということ。私たちも熱い気持ちを大切に、純粋に自分たちがワクワクすることに取り組みながら、未来の子どもたちが住みよい地方や日本を創っていけたらいいなと思っています。
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